◎国税庁の使命を果たすため絶えず進化を続ける 新木 ご着任おめでとうございます。最初に、大阪国税局長にご着任されての抱負をお聞かせください。
後藤 まず、新型コロナウイルス感染症による影響を受けられた皆様に心からお見舞いを申し上げます。
私は、昭和63年に旧大蔵省に入省し、これまで様々な分野で仕事を経験してまいりました。税務行政に携わりますのは、平成6年の左京税務署長をはじめとして国税庁で4年間勤務させていただき、国税局長としては平成29年の仙台国税局長と令和2年の福岡国税局長に続き3度目であります。
その中でも、大阪国税局は全国の国税局の中で東京国税局に次ぐ職員を抱え、国税組織の中核を成す非常に伝統のある組織であります。
その関西の税務行政を担っていく機会を得ましたことを大変光栄に思うと同時に、職責の重さに身の引き締まる思いであります。
近年、国税組織を取り巻く環境は、経済取引のデジタル化やグローバル化の進展に加えて、新型コロナウイルス感染症の影響により、急速に変化しています。
こうした中においても、「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」という国税庁の使命を果たしていくため、納税者サービスの充実に取り組むとともに、課税・徴収の高度化・効率化を図りつつ、適正・公平な課税・徴収の実現に努めていきたいと考えております。
まず、納税者サービスの充実については、納税者の皆様の申告・納税等に役立つ情報を国税庁ホームページ等を通じて、分かりやすく提供するほか、デジタル化を通じて申告・納税手段の更なる利便性の向上に取り組んでいきたいと考えております。
また、適正・公平な課税・徴収の実現への取組については、納税者の権利・利益の保護を図りつつ、適正な申告・納税を行った納税者が不公平感を抱くことのないよう、悪質な納税者に対しては組織を挙げて厳正な対応を行ってまいります。
国税庁に課された使命を今後とも着実に果たしていくために、将来の経済社会の変化に適切に対応しながら、絶えず進化し続けてまいりたいと考えています。
国民の皆様から負託を受け、信頼できる税務行政を行っていくためには、納税者の皆様方との信頼関係を築くことが重要であると考えていますが、私どものみの力では到底成し得ないことから、納税協会の皆様方のご理解とご協力を賜りたいと考えておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
新木 こちらこそよろしくお願いいたします。
◎関西の思い出と今後への期待
新木 関西の文化や歴史等についてのご感想、そして関西経済への期待や提言をお聞かせください。
後藤 関西は、文化遺産の宝庫であり、世界遺産を例に取ってみましても、京都と滋賀からなる「古都京都の文化財」をはじめ、兵庫、奈良、和歌山と関西一円にございます。
一方で、大阪や神戸は商都として栄えてきた経緯もあり、高層ビルが立ち並ぶ現代的な街でもあります。
このように、関西は文化や歴史が非常に豊かであるとともに、深い歴史と現代的な大都市が融合する、大変彩りの豊かな地域であると感じています。
また、関西には電気機器、製薬、保険等の付加価値の高い産業をはじめ、それぞれの地域が持つ特色を生かした産業が集まっており、とても活気があると感じています。
このような中で、令和6年夏頃から先行開業を始めるJR大阪駅北側の再開発地区「うめきた2期」では、商業施設やオフィスビルなどが整備されるほか、新駅の設置などインフラ整備も行われ、新たな人の流れが生まれてくるものと思われます。
更に、令和7年4月から10月にかけて大阪・関西万博の開催が予定されているなど、波及効果が見込まれるビッグイベントもありますので、関西経済の活性化に期待したいと思います。
新木 また、これまでのご経歴における関西との関わりについて、ございましたらご紹介ください。
後藤 冒頭にも申し上げましたが、平成6年7月から1年間、左京税務署長を務めておりました。
当時のことで最も記憶に残っておりますのが、平成7年1月に未曽有の被害をもたらした阪神・淡路大震災が発生し、このような状況の中で迎えた確定申告期対応です。
震災に対する税制上の措置として成立した雑損控除などの特別立法に伴い、被災した納税者による還付申告の大幅な増加が見込まれる中、国税局や被災地以外の税務署から700名を超える職員の応援や他の国税局職員の応援も得ながら、国税組織が一丸となって乗り越えたことを今でも鮮明に覚えています。
今回、28年ぶりに大阪国税局勤務となったことを良い機会としまして、改めて関西の文化や歴史に直接触れてみたいと思っております。
◎我が国の財政について
新木 我が国の財政について、現状を簡単にご説明いただくとともに、今後の展望をお聞かせください。 後藤 令和4年度の国の予算は、新型コロナウイルス感染症対策に万全を期すことに加え、「成長と分配」の好循環による持続可能な経済の実現に向けた施策を重点的に実施する観点から、一般会計歳出総額は、過去最大の107兆5964億円となっております。
一般会計予算における歳入のうち税収は、前年度当初予算に比べ7兆7870億円増の65兆2350億円を見込んでいることから、令和4年度予算の公債金収入(歳出と税収等との差額)は、36兆9260億円となり、公債依存度は前年度当初予算の40・9%から34・3%に低下することになりました。
しかしながら、少子高齢化に伴い、年金や医療、介護などの社会保障費用は、前年度予算に比べ4393億円増加し、令和4年度予算では36兆2735億円にも上っていることから、社会保障制度を将来にわたり持続可能なものとしていくため、税と保険料等の負担と給付の在り方を含め、一体的な見直しを図っていく必要があります。
いずれにしましても、歳入・歳出両面での財政健全化への取組を緩めることなく着実に実施していくことが求められるものと考えます。
国税庁におきましても、限られた人員、予算の制約の中で、適正・公平な課税・徴収の実現を図るため、これまで以上に効果的かつ効率的な税務行政の運営に取り組んでいかなければならないと考えております。
◎税務行政のDX化を推進 新木 次に、税務行政の当面の課題と運営方針をお聞かせください。 後藤 新型コロナウイルス感染症の影響により、我が国の国民生活や経済活動は大変大きな影響を受けましたが、このような前例のない状況下においても、「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」という国税庁の使命を果たしていく必要があります。
そのためにも、引き続き、納税者利便の向上に取り組むとともに、課税・徴収の高度化・効率化を図りつつ、適正・公平な課税・徴収の実現に努めていきたいと考えております。
経済社会のデジタル化が急速に進展する中、そのような取組を進める上では、データやデジタル技術を活用することが重要であり、こうした観点を踏まえ、令和3年6月に公表した「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション─税務行政の将来像2・0─」では、「デジタルを活用した、国税に関する手続や業務の在り方の抜本的な見直し」に取り組んでいく方針を明確にするとともに、「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」に向けた構想を示しました。
また、同年12月には、令和5年までを目途に取り組むべき施策を整理した「税務行政DX~構想の実現に向けた工程表~」を公表し、納税者利便の向上や課税・徴収の高度化・効率化に向けた取組を着実に進めているところです。
納税者利便の向上に向けた具体的な取組としましては、例えば、令和4年1月から所得税の確定申告において、スマートフォンのカメラを利用して給与の源泉徴収票を読み取ることができるようになりました。
また、新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点からも有効なダイレクト納付、振替納税、クレジットカード納付、インターネットバンキングといったキャッシュレス納付に、この12月からはスマートフォンを利用した決済サービス(スマホアプリ納付)の導入も予定しています。
このほか、令和5年3月末が原則的な申請期限となっているインボイス制度についても、事業者の方が制度内容を正しく理解し、事前準備を円滑に進めていただけるよう、国税庁ホームページの「インボイス制度特設サイト」を通じた情報提供や、国税局や税務署では、関係民間団体や関係機関と連携して、逐次、説明会を開催するなどの各種取組を行っております。
また、適正・公平な課税の実現への取組としましては、納税者の権利・利益の保護を図りつつ、適正な申告・納税を行った納税者が不公平感を抱くことのないよう、悪質な納税者に対しては組織を挙げて厳正な対応を行っているほか、社会全体のデジタル化の推進に伴う、経済取引環境の絶え間ない変化に的確に対応するために、様々なデータを分析・活用し、課税・徴収の効率化・高度化に取り組んでいます。
更に、酒類業の所管官庁として、「酒類業の健全な発達」を図るため、日本産酒類の販路拡大や認知度向上に向けた取組を推進することで、政府方針である農林水産物・食品の輸出額を令和7年までに2兆円、令和12年までに5兆円とする目標の達成に寄与していくほか、本年3月に、「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産の候補としてユネスコ事務局に提案されたことを踏まえ、シンポジウムの開催などを通じて国内外での機運醸成に一層取り組んでまいります。
国税庁に課された使命を今後とも着実に果たしていくために、将来の経済社会の変化に適切に対応しながら、絶えず進化し続けてまいりたいと考えております。
◎納税協会との連携協調に意欲
新木 納税協会は、税に関する公益法人として、租税教室の開催などに積極的に取り組むほか、次代を担う青年部会の活性化に力を注いでいます。
今年は、オンライン配信などを活用しつつ、インボイス制度や電子帳簿保存制度の周知及び広報にも取り組んでいます。
納税協会へのご注文、ご期待などがありましたら、お聞かせください。
後藤 納税協会は、個人・法人を問わず加入することができる全国に例のない組織として、税知識の普及、適正な申告納税の推進及び納税道義の高揚を図るという目的のため日々ご尽力いただいており、私どもにとりましても大変心強い存在となっております。
特に、令和5年10月から実施されるインボイス制度の円滑な導入に向け、納税協会主催によるオンラインを活用した説明会の開催など周知・広報に積極的に取り組んでいただいており感謝申し上げます。
また、青年部会の共通の活動テーマとして力を入れて取り組んでおられる租税教育活動については、令和3年度の租税教室の開催回数は回復している(対前年比180・9%)ものの、コロナ以前の回数までの回復には至っておりません(前々年度比50・4%)。
このような状況においても、納税協会の皆様からは、全体の19・0%に当たる延べ579名(対前年比149・2%)もの講師を派遣していただくなど、租税教育の充実に貢献していただいております。
更に、本年11月には、3年ぶりに「納税協会青年の集い」が大阪で開催されますが、このように、次代を担う青年部会が中心となって、今後も熱意を持って組織の活性化に取り組まれることを期待しております。
私どもといたしましても、納税協会の皆様とは様々な事業活動を通じ、税務行政の良き理解者、良きパートナーとして、これまで以上により良い連携・協調関係を築いていきたいと考えております。 今後も魅力ある事業を活発に展開され、地域社会での納税協会の存在意義を高めるとともに、より一層、企業経営及び地域社会の発展に貢献されますことを期待しております。
引き続きご理解とお力添えをよろしくお願いいたします。
◎皆様の声に耳を傾ける
新木 仕事におけるモットー、座右の銘などについてお聞かせください。
後藤 座右の銘というものは特にありませんが、これまで30年以上仕事をしてきて、うまくいった仕事や楽しかった仕事を振り返りますと、自ら積極的に関わり、考え抜いた仕事でありました。
このようなことから、関係民間団体の方々とお話する機会をできる限り設け、ご意見にはきちんと耳を傾けて、焦らずによく考えて判断していきたいと思いますので、当局に対する率直なご意見をお聞かせいただければ幸いです。
新木 それでは、最後に、余暇の過ごし方、趣味などについてお聞かせください。 後藤 単身赴任であることから、休日は買い物や身の回りの整理を優先していますが、それが気分転換にもなっています。
また、休日の天気が良い日には街歩きをしていますが、大阪城の周辺だけでも、大阪城から真田山にある三光神社に通じていたと言われている「真田の抜け穴」や、豊臣秀頼の「へその緒」が祀られている胞衣塚大明神など、関東出身の私には様々な楽しい発見があります。
関西は彫りの深い歴史がある地域だと感じておりますので、機会を見つけて、各府県の歴史にも触れてみたいと考えております。
新木 お体にお気を付けていただきまして、ご活躍されますことを、納税協会の会員の皆様とともに祈っております。
本日は、お忙しいところ、ありがとうございました。
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