T 平成21年度税制改正案について
古谷でございます。よろしくお願いいたします。
まず、平成21年度税制改正をめぐる状況を最初に総論的にお話ししたいと思います。ご承知のように100年に1度と言われる世界的な経済金融危機の中で、先進各国とも大胆な財政金融政策を相次いで講じてきています。日本もまた、世界不況の津波から逃れることはできないということで、国民生活と日本経済を守るために、現内閣は、「当面は景気対策」、「中期的には財政再建」、「中長期的には改革による経済成長」という3段階で経済財政運営を行っていくという方針の下に、昨年の夏以降3次にわたって対策を打ち出しています。
平成21年度の税制改正案も、住宅・土地税制や企業減税など、今年度から3年の景気回復期間中に減税を集中的に行うといった内容になっています。
併せて、社会保障財源を中心として責任ある税財政を確立するために、「中期プログラム」というものを昨年の暮れに閣議決定しています。それについても後ほど簡単にご説明したいと思っています。
1 住宅・土地税制
(1) 住宅ローン減税制度の改正
平成20年末で期限が来る現行制度を5年間延長した上で、一般の住宅の場合、平成21年、22年居住開始分については、5000万円のローン残高を限度に、1%の控除率で10年間税額控除をします。10年間で最大500万円の税額控除が可能です。この制度は5年間の措置ですが、平成23年、24
年、25年と対象となるローン残高の限度額が下がっていく形になっており、景気対策という観点から、なるべく早期に住宅を取得していただく方に、減税の恩典を大きくするという制度になっています。
加えて、長期優良住宅(いわゆる200年住宅)については、控除率を1・2%にかさ上げしており、平成21年、22年、23年に長期優良住宅をローンを組んで新築等される場合、10年間で最大600万円の税額控除が可能となります。
更に、中低所得者に負担軽減の効果がきちんと及ぶように、所得税の住宅ローン控除の適用者について、所得税から控除しきれない場合には、個人住民税から控除することとしています。
(2) 長期優良住宅に係る税額控除制度の創設
自己資金で住宅を新築あるいはリフォームされる場合にも、税額控除を認めるという新たな制度を創設しています。
長期優良住宅には世代を超えて利用される社会資本といった性格もあると考え、自己資金で新築される場合にも、標準的なかかり増し費用の10%をその年分の所得税額から控除することとしています。ただ、この時の最大控除可能額は100万円とし、その年の所得税から控除しきれない分は、1年繰り越して控除することを可能としています。
(3) 住宅リフォームに係る税額控除制度の創設
リフォームについては、現行制度では住宅ローン減税で対応していますが、一定の省エネ改修工事、バリアフリー改修工事については、社会的にも政策的重要性が高いということで、自己資金で行った場合についても、その工事費用の10%をその年分の所得税額から控除することとしています。最大20万円(太陽光発電装置を同時に設置される場合には30万円)という限度を設けています。
(4) 土地税制の改正(創設)
土地税制でも、これまでにない税制上の仕組みを創設することとしています。
一つが、平成21年又は22年に取得した土地を譲渡した場合、所有期間5年超のものについては、その年中の譲渡所得につき
1000万円の特別控除を認めるという制度です。
もう一つは、平成21年又は22年に土地等の先行取得をした場合の課税の特例です。例えば、企業などが遊ばせている土地を保有しておられる場合、これを売却したいと思っても、昔から持っている土地だと相当含み益がありますから、売ると譲渡益が相当生じます。別途必要な土地を今のうちに先行取得しておいてもらって、将来、遊ばせている土地を売った場合には、その売却益の8割を先行取得した土地の簿価を圧縮する形で課税を繰り延べるという仕組みです。取得の日を含む事業年度終了の日後10年以内に、所有する他の土地等を譲渡したときの譲渡益の8割(平成22年に取得した土地等のみを本特例の適用対象とする場合には6割)相当額を限度として課税を繰り延べます。
(5) 土地税制の改正(延長等)
土地の売買等に係る登録免許税の軽減措置は、1000分の10の軽減税率を平成22年度まで据え置き、引上げを後送りします。
また、事業用の長期保有土地等の買換え特例を3年間延長します。
2 法人関係税制
(1) エネルギー需給構造改革推進税制の拡充
現行のエネルギー需給構造改革推進税制の対象設備について即時償却を可能にします。現在、このエネ革税制は、普通償却に加え、初年度30%特別償却という仕組みになっていますが、これから2年間の設備投資分については、全額初年度に費用化できるようにします。
(2) 資源生産性向上促進税制の創設
企業や事業所が自らの工場を省エネ化するときに、その省エネ投資について税制上配慮する制度を創設します。一つは、企業の生産ラインの資源生産性を高めるために行う設備投資を対象とするもので、もう一つは、一定の基準を上回る省エネ家電等を製造するための製造ラインを新たに作る場合の設備投資を対象とするものです。2年間は、これらの投資を行った場合、初年度に即時償却するという仕組みを導入します。
3 中小企業関係税制
(1) 中小法人等に対する軽減税率の時限的引下げ
中小法人に対する法人税の軽減税率を、2年間、時限的に引き下げます。法人税の基本税率は30%ですが、現在、中小法人(普通法人のうち資本金1億円以下のもの)は、所得の金額のうち年800万円以下の金額に対して、22%という軽減税率が適用されています。この22%の軽減税率を平成21年4月1日から平成23年3月31日までの間に終了する事業年度について18%に引き下げます。併せて、中小法人と同じように軽減税率のある公益法人等や協同組合等についても、所得の金額のうち年800万円以下の金額に対して、18%の軽減税率を適用します。
(2) 中小法人等の欠損金の繰戻し還付の復活
法人税法の本則では、法人企業について、前期が黒字で当期に赤字となった場合には、1年間繰戻し還付を認めるという制度があるのですが、平成4年から、この欠損金の繰戻し還付制度は停止されています。これについて、中小法人等については、繰戻し還付制度を復活します。
平成21年2月1日以後に終了する事業年度において生じた欠損金額が、繰戻しの対象になります。2月1日以後に決算期が来る法人が対象ですので、3月中にこの改正案が通れば、4月以降に申告・納付をされる企業から、この繰戻し還付を適用することができます。
4 相続税制
(1) 非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度等の創設
経済産業大臣の認定を受けた後継者については、相続税額のうち議決権株式の8割に相当する相続税を納税猶予するという制度です。後継者が企業を経営する際に、議決権株式の3分の2あれば企業を統括できるということで、発行済議決権株式の3分の2に達するまでの部分が対象となります。
経済産業大臣の認定を受けた後継者が、5年間事業を継続することが要件になっています。事業の継続の一番大きな要件は、「代表者であり続けること」「株式の保有を継続すること」「雇用の8割維持」があります。5年間に事業を継続しなくなった場合は、その時点で猶予税額の全額を納付します。
ここまでは「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」で認定等の要件として決まっており、この5年間の事業継続が終わった後については、税法において要件を定めています。事業の継続要件は5年間で外れますが、引き続き納税猶予を受けるためには、株式の保有を死亡まで継続していただくのが要件です。しかし、死亡以外の場合で猶予税額を免除していい場合があるのではないかということで、それを具体化しました。
会社が倒産をした場合、後継者に贈与をされた場合、同族関係者以外の人に株式を全部譲渡した場合(この場合一定額)などに猶予税額が免除されます。
(2) 株式等の生前贈与を促進するための措置
事業承継を計画的に進めていくためには、親から子に生前贈与して事業を継続するということも大事であるということで、生前贈与の場合の納税猶予制度も相続の場合に準じて新たに創設します。
経営者から後継者に株式を生前贈与される場合、相続税と同様の要件の下に、議決権株式の3分の2に達するまでの贈与について、贈与後の5年間の事業継続を要件として、贈与税の全額を納税猶予する仕組みを導入します。5年間の事業継続期間経過後は、後継者が株式を保有していただければいいわけですが、この後、旧経営者が亡くなられると相続が発生します。その時点でもう一度、猶予対象株式等を相続により取得したものとみなし、贈与時の時価で相続財産に合算して相続税を計算します。この時点で相続税の納税猶予の適用要件を満たしていることを経済産業大臣が確認すれば、相続税の納税猶予に切り替わります。相続税の納税猶予額は、議決権株式(相続後で発行済議決権株式の3分の2に達するまで)の8割に対応する相続税の額となります。場合によっては、全額と8割の差の2割分の納税がここで発生する可能性があります。
なお、猶予税額の計算方法ですが、納税猶予の対象となる株式等のみを相続するとした場合の後継者の相続税額から、その株式等の金額の20%に相当する金額の株式等を相続するとした場合の後継者の相続税額を控除した額を後継者の猶予税額とします。特例の適用により、他の相続人の税額に影響を与えないようにするという考え方です。
(3) 農地に係る相続税の納税猶予制度
これまで農地に係る相続税は、耕作者自らが所有をする、所有者自らが耕作をするという農地法の考え方を前提に、農地を相続され、それを自作される方についてだけ、納税猶予制度を認めるという取扱いでした。これについて、農林水産省は、自ら所有するかどうかにかかわらず、農地を利用する者を確保していく方向で農地制度の改革をすることになっています。これに併せて農地に係る相続税の納税猶予制度についても見直しをします。
農地法の転用規制が及ぶ農地(市街化区域外の農地)について、自分で耕す場合だけではなく、農地の有効利用を促進する観点から貸し付けられた農地も納税猶予制度の適用対象とします。また、これまでは、自作を前提に20年間の営農継続で、猶予税額が免除される仕組みでしたが、納税猶予の要件が終生の農地利用に見直されます。ただ、猶予期間中に疾病や高齢が理由で、営農継続が難しくなった場合、納税猶予が継続できるように営農継続要件を緩和します。更に、20年間の営農継続で免除されない農地について、猶予税額の納付に伴う利子税を引き下げます。
農地法の転用規制の及ばない農地(生産緑地などの市街化区域内農地)については、前述の営農継続要件の緩和、利子税の引下げのみ適用します。
5 金融・証券税制
(1) 上場株式等の譲渡益及び配当課税の改正
現行では、平成21年から、税率を20%の原則に戻し、上場株式等の譲渡損と配当の損益通算をできるようにし、平成21年と22年の2年間は20%の税率について、上場株式等の譲渡益については500万円以下の部分、上場株式等の配当については100万円以下の部分については10%の税率を適用するという特例措置を設けていました。
改正案では、平成21年から平成23年までの3年間は、現行の10%の軽減税率を限度額なしに単純に延長することになりました。したがって、税率が本則の20%に戻るのは、平成24年1月からということになります。損益通算の方は、予定どおり、平成21年から実施することとしています。
(2) 確定拠出年金制度の拡充
これまで企業型の確定拠出年金は、事業主だけが掛金を拠出する仕組みで、事業主の拠出については福利厚生費として、損金算入を認め、従業員の方も給与としては非課税という扱いでした。改正案では、企業型の確定拠出年金について、事業主の拠出の範囲内で、かつ、事業主と合わせて拠出限度額の範囲内で行う個人拠出(マッチング拠出)の掛金は、その全額を所得控除の対象とすることとしました。
併せて、確定拠出年金の拠出限度額を引き上げます。
(参考1)少額の上場株式等の投資のための非課税措置の創設
上場株式等の配当・譲渡益について、毎年新規に100万円ずつ非課税投資枠を積み上げていき、5年間で500万円までの株式の購入について、その口座の中で10年以内に生じる配当と譲渡益については非課税とする、いわば非課税勘定のようなものを作ろうとしています。細部を詰めまして、平成22年度改正において具体的に設計をすることにしています。
(参考2)生命保険料控除の改組
これまで一般生命保険料控除の対象であった介護・医療保険を別立てにして、介護医療保険料控除の枠を上限4万円と設定し、今まで5万円だった一般生命保険料控除と個人年金保険料控除の上限をそれぞれ4万円とし、合わせて上限12万円の生命保険料控除とすることにしました。この新たな三本立ての生命保険料控除の仕組みは、平成24年分から実施することにし、具体的には、平成22年度改正で措置することにしています。
6 国際課税
これまで、海外の子会社が得た利益は、基本的には外国で課税が完了しますが、その子会社が国内の親会社に配当をした場合は、その時点でいったん親会社の所得として益金に算入した上で、配当に見合う外国税額を控除するという間接外国税額控除制度の仕組みを日本はとっていました。このような形で配当に係る国際的な二重課税の調整をしてきたわけです。
改正案では、経済対策の一環としての位置付けや制度の簡素化といった観点等を踏まえ、この間接外国税額控除制度を廃止し、海外子会社からの配当については、益金不算入とする制度に変更することとしています。対象となる外国子会社は、原則として、内国法人の持株割合が25%以上である場合です。
海外で上げた利益が国内に還流され、企業の設備投資、研究開発、雇用確保など幅広く多様な分野で活用されることを期待しての改正です。
7 自動車課税
一定の排ガス性能・燃費性能等を備えた自動車について、平成21年度から平成23年度までの間に受ける新規・継続車検等の際に納付すべき自動車重量税を全額免除、75%軽減、又は50%軽減します。
U 中期プログラムについて
中期プログラムは、Tで「景気回復のための取組」、Uで「国民の安心強化のための社会保障安定財源の確保」が書いてあります。Uとの関連で、V「税制抜本改革の全体像」が書かれています。
話題になっていましたのが、Vの1「税制抜本改革の道筋」というところです。年末に与党の中で大変な議論がありまして、まとまった文章ですが、「今年度を含む3年以内の景気回復に向けた集中的な取組により経済状況を好転させることを前提に、消費税を含む税制抜本改革を2011年度より実施できるよう、必要な法制上の措置をあらかじめ講じ」とあります。
更にVの2の「税制抜本改革の基本的方向性」ということで、それぞれの税目にわたって今後検討すべき課題が整理されております。
個人所得課税については、格差の是正や所得再分配機能の回復の観点から、各種控除や税率控除を見直し、高所得者の税負担の引上げや、給付付き税額控除の検討を含む中低所得者世帯の負担の軽減などを検討することなどが書いてあります。法人課税については、国際競争力の強化などの観点から、課税ベースの拡大とともに、法人実効税率の引下げを検討すると書いてあります。消費課税については、その全額が年金、医療、介護の社会保障給付と少子化対策に充てられるように明確化する。複数税率の検討など総合的な取組みを行って、低所得者への配慮も検討すると書いてあります。資産課税では、相続税の課税ベースや税率構造等を見直し、負担の適正化を検討するといったことが書いてあります。
いずれにしましても、当面は景気対策に注力しつつ、中期的にはこういったことで方向性を示したいという二本立てで、税制改正を巡る議論は進んでいます。ぜひ皆さんの方でも関心を持ってご覧いただければありがたいと思います。
ご静聴ありがとうございました。 |