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トピックス
納税協会フォーラム2005
明日の中小企業を考える〜市場開拓と人材育成〜

コーディネーター

藤田太寅
元NHK解説委員、関西学院大学客員教授。「NHKスペシャル」「土曜フォーラム」などの番組キャスター、コーディネーターを務める。

岡野雅行
岡野工業(株)代表社員/東京・墨田区の金型・プレス加工メーカー経営。その技術力は、世界の大企業やNASAも注目する「刺しても痛くない注射針」などを開発。著書「俺がつくる」「あしたの発想学」など。

橋本久義
政策研究大学院大学教授/「現場に近いところで行政を・学問を」をモットーに、全国の中小企業の現場を訪れて意見を聞く。主な著書「町工場が滅びれば日本が滅びる」「町工場こそ日本の宝」など。


パネリスト

大武健一郎
商工組合中央金庫(商工中金)副理事長/前国税庁長官/日本企業の高い技術力、商品開発力を活用していくことが今後の日本にとって何より大切で、欧米とアジアの結節点として、その特色・持ち味を発揮すべきであると提唱。

佐藤芳直
(株)船井総合研究所取締役常務執行役員/業界を問わず企業の将来構想立案と緻密な経営戦略づくりに注力し、高い評価を得ている。著書「リーダーは夢を語れ」「“100年企業”を創る経営者の条件」など。

堀場雅夫
(株)堀場製作所最高顧問/(社)下京納税協会顧問/「おもしろおかしく」を社是に、全社一丸となってベンチャービジネスのモデルといえる企業を作り上げた。著書「仕事ができる人 できない人」「今すぐやる人が成功する!」など。


本稿は、去る平成17年11月12日に行われた納税協会フォーラム2005・第2部専門家フォーラムの要約です。



第2部 専門家フォーラム

■はじめに〜景気の現状
藤田  現在、我が国経済は長期の景気回復基調にあります。しかし、これがより確かなものとなるためには、日本経済で最も大きな存在を占める中小企業が、確かな歩みに戻るかどうかにかかっていると思います。まずは景気の現状について、一言ずつお願いします。
大武  大企業の好転に比べると、中小企業の好転は遅れています。業種別、地域別にかなりバラつきがあると感じています。
堀場  私は、地域・業種・規模は、全然関係ないと思います。結局、今の市場と対応しているかどうかではないでしょうか。
橋本  ものづくりの中小企業は、だんだん元気になってきていると思いますので、それに伴って、他の分野も良くなっていると思います。
岡野  大企業や中小企業は景気がいいかもしれないけど、下請けの町工場の大半はダメです。町工場がなければ大企業も困るはずで、そこを忘れてもらっては困ると思います。
佐藤  価値を追求したビジネスに早くから転換したところは良くなっており、価格の商売に絞りすぎているところは悪くなっているという、圧倒的な二極化が進んでいると思います。


1 市場開拓
中国のとらえ方
藤田  納税協会では、先に、会員の中小企業経営者を対象にアンケート調査を行い、608件の有効な回答を得ました。その中で、経営課題として「市場」を挙げている回答が最も多くありました。
 橋本さんは、この結果をどういうふうにとらえますか。
橋本  やはり、中国の問題が大きいと思います。しかし、世界中の製造業が中国を目指してやってくる中で、中国でできないような高度な部分は、やはり日本に流れてきています。この中国の問題を世界的に見てみると、実は日本はヨーロッパやアメリカに比べて、被害は少ないと思います。
大武  中国は、知的財産の保護に関する態度がはっきりしないため、実のところ欧米は彼らを信じていません。したがって、頭脳的な部分は日本に流れてくるのです。
 また、日本は世界的に見れば、アジアへの販売戦略上、最も重要な拠点です。なぜ、ヨーロッパの高級ブランドが、日本の一等地に店を出すのか。それは、日本で売れたら、アジア中で売れるからです。
 日本はアジアと欧米の結節点として、重要な位置を占めつつあると思います。
   
価格から価値へ
佐藤  1990年代の終わりごろ、市場は全体的に価格を競う方向へ流れました。しかし、現在は価値を競う方向へ移行しています。安いだけではダメで、むしろ高くてもいいものが求められるのです。
 経営者としては、価値の商売への移行の必要性は感じつつも、一方で、価格の商売はまだ続きそうだとも思っていて、どうすればいいのかわからないという呪縛≠ェあるのではないかと思います。
藤田  岡野さんは、次々と誰にもまねのできないような製品を生み出しており、それは、価格より価値という部分に通ずるのではないかと思います。最近では刺しても痛くない注射針を作られましたね。
岡野  それまでの針は元も先も同じ太さだったのですが、その医療機器メーカーが設計した針は、元は太くて先が細い。今までの常識ではできないものだったのです。
 試作品は大体半年で完成させて、量産体制にするまでに3年かかりました。今、そこの会社は世界中で特許をとって、どんどん伸びています。僕はそれを楽しみにしています。
藤田  橋本さん、価値を高めるのに重要な技能・技術が空洞化していると言われますがどう思われますか。
橋本  いや、そういう認識が先行しているだけで、実際はそんなことはないですよ。
 ある木型屋さんは、不況で仕事がない時、無料で今まで納めた木型の修理をして回ったそうです。すると、新しいノウハウが得られ、会社の評判が良くなり、注文が増えたという話を聞きました。
 苦しいときでも、日本の企業は本当に頑張る。そういう粘りがあるんです。
大武  私も同感です。ものを作るのに熱心だということは、別の視点で言うと使い心地の良さに対する感覚が敏感だということです。だから日本で成功した商品は、世界中で成功すると言われるんですね。
   
市場は縮小しているか
三木  二代目というのは、一般的にあまりいいイメージはありません。先代の時から会社を支えてきた番頭は、苦労知らずの二代目の私の命令など聞く耳を持っていませんでした。しかし、時代の変化に対応していないマンネリ化した仕事をしていたのでは、ジリ貧になるのは目に見えて明らかでした。
 私は、いったい私の通信簿は何だろうと自問自答した結果、とにかく利益を出すことだという結論に至りました。
 そして、利益を出すために、まず、番頭クラスを配置転換しました。これによって、若手がどんどん伸びてきました。私は、その若手のモチベーションを高めるために、責任と権限を与え、信賞必罰を実行しました。いわゆる実力主義です。
 入社3年目でも、営業に出て先輩より稼ぐ人間がいます。逆に、倉庫の中で朝から晩まで品物の積み下ろしをしているような人間も出てきます。ついてこられない人には辞めていただくしかありません。そうすることでできる人間にサラリーを出すことができるのです。
 厳しいと思いますが、そういうことをやりながら、いい人材を確保していきたいと思っています。
   
従業員の人間性を育む企業風土を醸成する
藤田  堀場さん、人口の減少などにより、市場が縮小しているという考えがありますが、どう思われますか。
堀場  いや、世界規模では人口は増えているし、生活レベルも上がっているので、市場は広がっていますよ。ただ、その市場に適したものを提供できているかどうかだけの話です。
 国内だけに限っての話としても、日本の年寄りはお金を持っているんですよ。ただ、年寄りが欲しいと思うものを売ってないだけです。金を持ってる年寄りを相手にせずに、金を持ってない若者向けで競争している。これはダメですよ。
岡野  皆さん市場、市場といいますが、うちの会社は市場は関係ありません。他でできなかったものを、頼まれて作るだけですから。ただ、そういうものを作ることで、仕事を失う人が出ますから、市場とか中国とかよりも、そっちのほうが恐ろしいですね。(笑い)
   
お客様は何をみているか
佐藤  日本の消費者は世界で一番進んでいると思います。お客様が求めているのは、良い品質で、自分がその商品の良さに気付ける商品です。そして、お客様は、商品を見ているようで、その商品の更に奥にある企業そのものを見ています。
 私は、企業が自分たちの思いや哲学、信念を、お客様に伝える場、情報交流できる場が必要だと思います。お客様は、手間をかけて生み出すものであって、売上げはその手間に比例して上がっていくのだと思います。
   
ものの値段は誰が決めるのか
堀場  欲しいものを欲しい価格で欲しい時に提供したら、お客は買ってくれます。ただ、メーカー側は、製造原価に利益を乗せていく形で値段をつけがちですが、これは間違いです。お客がこの値段なら買うというのが、本当の価格です。その価格で売って儲けられるようになることを、僕らは技術があると言います。
 ルイ・ヴィトンとか、シャネルとか、みんなそうですよ。高いけど、買う人は納得している。これが顧客満足ですよ。
   
日本人の感性を信じる
岡野  雑貨という言葉がありますね。靴とかテレビとかライターとかはみんな雑貨で、その中にちょっとだけハイテクが入っていて、そこを大企業が握っているだけなのです。それ以外の部分は中小企業に押し付けているのです。でも、そういう雑貨の部分、やすりやハンマーでやってる部分があるから、ハイテクが生きてくるんだと思っています。
橋本  どんな先端技術もそれを構成している大部分の要素は、普通の鉄板ですね。そこが悪いと、先端がどんなにいい技術でもダメです。アメリカの工作機械産業がダメになったのは、実はそれが原因です。
 日本は、岡野さん言うところの雑貨が、ものすごくきっちりとしている。先端技術も、それによって生きているのではないかと思います。
藤田  よく日本の美意識と言われますが、それに関してはどうでしょうか。
大武  GEのジャック・ウェルチという方は、日本で松下電器やその他との競争に負けて撤退する時に、「日本で負けたのは残念だが、我々は日本人が満足できる製品を作れるだけの技術を持つことができた。これでGEは、世界で受け入れられる製品を作れるようになった」と言ったそうです。
 ハイテクであれローテクあれ、日本の場合は、消費者の感性に共鳴しない限り、絶対受け入れられません。その日本人の感性が大変に優れているのだと思います。我々日本人の感性に対応できるものさえ作れば、堂々と世界で勝負できると確信しています。
   
2 人材育成
若い人材が会社に求めるものを与える
藤田  アンケート調査で、「市場」に次いで多かった経営上の問題は、「人材」についてでした。佐藤さん、若手の人材教育についてどのようにお考えでしょうか。
佐藤  今の若者を見ていると、とにかく好きな仕事をやりたいという考えが強くて、それができるなら別に給与は安くてもいいという思いがあるのも事実だと思います。
 私は1981年に大学を出たのですが、私の時代は、いい学校を出て、大きい会社に入って、定年まで勤めて、退職金をもらって、年金で暮らすという、人生の道がある程度固定化していました。
 しかし、今の若者たちには、そういう道がなくなってしまっており、彼らはその中で、プラスとマイナスに二極分化していると思います。そして、プラスの方向に行っている人たちには、世の中に貢献したい、成長したい、そして挑戦したいという三つの欲求があると思います。この強い思いが実現できる企業に、良い若者が集まっているというのは間違いないでしょう。
   
目標を与えれば若者はやる
藤田  岡野さんは、これまで頑張り続けることができたのはどうしてだと思いますか。
岡野  私は学歴もなければ地位もありません。子供のころ、母親から、腕に職を付けなければ生きていけないよ、だから親父の仕事を習うようにと毎日のように言われました。それが、嫌々ながらやっているうちに、だんだん面白くなってきたということです。
 今の若い人はダメだっていわれますけど、やる気があれば何でもできるんです。目標さえ与えればやるんですよ。ニートやフリーターなんていうのがフラフラしてるのは、目標がないからです。もっと言えば、家庭のお父さん、お母さんが腰抜けなんです。学校が悪いんじゃない、家庭が悪いんです。
   
仕事は楽しいものだと教える
藤田  堀場さんのところでは、若者に対してどういう刺激を与えていますか。
堀場  とにかく、仕事というものはおもしろおかしくするものなんだと教えています。そもそも、仕事は疲れるもの、苦労するものだという考えがおかしいですよ。
 おもしろければ、どんどんはかどりますし、いろんなものが見えてくるのですね。それに、楽しいことをしていると、疲れないじゃないですか。仕事で疲れるのなら、やめておけばいいと僕は思うんです。
藤田  大武さんは、大学でも教えていらっしゃいますが、最近の若者について、どう思われますか。
大武  私たちと比べて、ハングリーさがない反面、極めてまじめで優しいと思いますね。そして、総合力はともかく、一つのことに対して非常にこだわった子が増えているような気がしています。
 青年部フォーラム(2月号参照)で浅田さんが言われましたが、やはり使う側には、彼らは何が好きで何ができるのか、そのセンスを見抜く力が必要なのでしょう。そして、棚橋さんがおっしゃったように、いかに夢を持たせてあげるかが重要です。
 彼らは、私たちよりかなりまじめに、自分の生き方を考えているのではないでしょうか。だから、フリーターのように、いつまでも自分探しをしているのではないかという気さえ私はします。
   
情報を共有することが大事
橋本  私は、従業員のモチベーションを維持するために必要なものは、牧師さんと尼さんとお賽銭だと思っています。牧師さんというのは、キリストの言葉を伝える人、つまり、社長の行いや考えを伝えて歩く人です。尼さんというのは、落ち込んでいる社員を慰めて、やる気にさせてあげる人。お賽銭は、給料です。この3つが重要かなと思います。
大武  とにかく、情報を共有することが、ものすごく大切です。今の若い人は、会社の目標や仕事の目的などについて、会社側が真剣に語りかけないと理解しません。何のために仕事をやっているかということをよく話をして、夢を共有し、実現する。そして感動を体験する。それが重要じゃないかと思います。
   
愛情のある人間関係の構築を
堀場  我々のところでは新しく入ってきた人には、先輩がついて、一緒になって仕事をやっていくという制度があります。これはもう仕事の話だけじゃなしに、お兄さん、お姉さんとして、人生の相談事まで受けるような関係になってきます。
 そういう人間関係も大事なのかなと思います。
佐藤  夢なき企業に人は育たないと思います。その夢には、二つあります。一つは人生の夢で、経営者が社員に語る人生の夢です。もう一つは、仕事の夢で、経営者が描いている会社の将来像です。こういう夢を共有し、共に見ていくことで、人は初めて育つのではないでしょうか。
 育てるにはまず、仕事を好きにさせることが一番です。そのためにはやっぱり経営者が愛情を持って、仕事について語ることだと思います。

■まとめの一言
藤田  最後に、一言ずつ、まとめをお願いします。
佐藤  繰り返しになりますが、夢なき企業に人は育たず、夢なき企業に人は残らず。そして旗を立てる。旗を立てて、社員と夢を共有し、妥協することなく邁進していく。是非、実行していただけたらなと思っています。
岡野  会社を活性化するためには、今までと全然違う考え方の人を入れないとダメだと思います。そうすれば、必ず、一つや二つ違った発想が出てくるはずで、それを採り入れて、応用していけば、絶対に面白い仕事ができてくると思います。
橋本  私は、日本の本当の強さは、オンリーワンの技術でもナンバーワンの技術でもないと思います。
 本当の強さは、その仕事をやったからといって、誰も褒めてくれない、報われることも少ない。でも、どうやったらいいものをより安く、より早く、より便利に作れるか、一生懸命考えて、真心込めて、夢と誇りとロマンを失わずにやっている。そういう思いを持った会社や人がいることこそが、日本の強さだと思っています。
 是非これからも、夢と誇りとロマンを失わずに頑張っていただきたい。
岡野  大企業や中小企業は景気がいいかもしれないけど、下請けの町工場の大半はダメです。町工場がなければ大企業も困るはずで、そこを忘れてもらっては困ると思います。
堀場  1970年代に、アラン・ケイという男が、現在のパソコンのコンセプトを出しましたが、本当に20世紀末にパソコンが生まれました。彼の言葉に「未来とは予見するものではない。自ら作り出すものなんだ」という言葉があります。
 うちの会社はどうなるのか、自分はどうなるのかと考えるのではなく、どういう会社にするのか、どういう自分にするのかということを、自らが考えることによって、それが現実のものになるのです。
 これは私の座右の銘としているのですが、どうか皆さん方も、これを実施されたらいかがでしょうか。
大武  僕らの時代は、過去の経験や経歴を学ぶ時代だったのだと思います。これからは、現場に帰って、考える時代だと思います。一人ひとりが自分のいいところを生かしながら、現場に入って考える。そうすれば未来は開けるんじゃないかなと思います。要は考えることだと思います。
藤田  ありがとうございました。関西の優良企業も、一朝一夕にして今日を築いたものではありません。また、楽な経営というものもありません。やはり、毎日よく考えること、そして経営を楽しむような心掛けが必要なのではないかと、司会をしながらそんないわば読後感を持ちました。皆さん、ありがとうございました。




(納税月報 2006年3月号より)