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講演 平成30年度税制改正について

2018.05.01

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新川浩嗣

(財務省大臣官房審議官)

(敬称略)



本稿は、去る1月30日の税制改正講演会における講演内容を要約したものです。

Ⅰ 経済社会の現状

新川でございます。本日は、平成30年度税制改正についてご説明させていただきます。

  はじめに、経済状況についてお話しすると、現在の日本経済はきわめて好調であり、かつ今後もこの傾向が続くと思われます。安倍政権発足前と比べると、雇用情勢の面では失業率が4・3%から2・7%に減少し、企業収益は12・4兆円から20・4兆円に大きく上昇しています。この流れを維持し続ける必要がありますが、一方で全体のバランスを取っていく必要もあります。雇用情勢からいえば人手不足の問題がありますし、企業収益の伸びは大変良いことですが、その好業績を何につなげていくかということを考えていく必要があります。

 例えば、我が国の労働生産性について見ると、他の先進国と比べ、時間当たり労働生産性は低く、アメリカやフランス、ドイツとの差は拡大傾向にあります。企業業績が好調ですと、当然賃上げを求める声が上がりますが、一度上げた賃金をまたすぐに下げるというのはなかなか難しく、持続的に賃上げを行っていただくためには何か裏打ちになるようなことが必要になってきます。後ほど、賃上げを後押しする税制についてお話しさせていただきますが、やはり生産性の向上があって初めて継続的な賃上げにつながりますので、今政権が掲げる大きな革命の一つに「生産性革命」という言葉がありますように、税制としてもチャレンジしていかなければなりません。

 生産性の向上については、「働き方改革」も重要です。現在は、公務員はもちろん、多くの会社では、副業は禁止されていると思います。厚生労働省が定めている「モデル就業規則」でも、現在は原則として副業禁止となっていますが、これを見直す動きがあります。昔は終身雇用が当たり前でしたが、今の社会では転職する人も多く、女性の社会進出や高齢者の雇用など、働き方が多様化しています。こうした観点から、所得課税についても見直す必要があります。

  しかし、明日から全く新しい税制にするというのは難しく、特に所得税は国民の皆様の生活に密着していますから、急激な変化は好ましくありません。ですから、時代の要請に合わせて徐々に変えていく必要があります。

 個人所得課税の見直し

具体的にどのような見直しを行うかというと、まず1つ目は、給与所得控除・公的年金等控除から基礎控除への振替です。我が国の個人所得課税は、多様な働き方の拡大を想定しているとは言い難く、働き方や収入の稼得方法により所得計算が大きく異なる仕組みになっています。給与所得控除・公的年金等控除の一部を基礎控除に振り替えることで、フリーランスや起業、在宅で仕事を請け負う子育て中の女性など、様々な形で働く人をあまねく応援することができ、働き方改革の後押しになります。

  2つ目は、給与所得控除の上限の引下げです。給与所得控除は、実際の勤務関連経費を大幅に上回る水準にあり、諸外国と比べても圧倒的に高い水準にあります。「控除額を主要国並みに漸次適正化する」という方針の下、近年、控除額の上限を引き下げてきました。これまでの方針に沿って、控除額が頭打ちとなる給与収入を850万円に引き下げますが、子育てや介護に配慮し、23歳未満の扶養親族や特別障害者の扶養親族等を有する者等には負担増が生じないよう措置を講じます。

 3つ目は、公的年金等控除の適正化です。公的年金等控除は、給与所得控除と異なり控除額に上限がなく、年金以外の所得がいくら高くても、年金のみで暮らす者と同じ控除が受けられる制度です。公的年金等控除について、公的年金等収入が1000万円を超える場合の控除額に上限を設け、年金以外の所得が1000万円超の年金受給者の控除額を引き下げます。

  4つ目は、基礎控除の適正化です。基礎控除は所得控除方式を採用していますので、所得が高いほど税負担の軽減額が大きくなります。所得が高い方にまで税負担の軽減を及ぼす必要は乏しいのではないかという指摘があることを踏まえ、控除額について、所得2400万円超から逓減、2500万円超で消失させます。

デフレ脱却・経済再生

1 生産性革命の実現

近年、企業の内部留保が増えてきています。過去最高の企業収益を上げるのは非常に喜ばしいことですし、そういう事業環境が整ってきたということで、果敢に経営にチャレンジしていただくことは重要だと思います。こういった中で、収益が上がっている部分を国内投資や賃金に回していただきたいというのが経済政策のもう一つの大きな柱になります。

  誤解なきように申し上げますが、政府は内部留保そのものが悪いという立場には立っていません。内部留保にもいろいろと重要な役割があり、企業の業態によって活用方法には様々な考え方があると思います。そのことは全く否定するものではありませんが、全体として賃上げが鈍いペースにある中で、国内投資や賃上げにその内部留保をできるだけ活用していただきたい、そのための政策誘導を行いたいということです。

  具体的な施策として、まず1つ目は所得拡大促進税制の改組です。前年度比3%以上の賃上げ等をされた場合は、給与等支給総額の対前年度増加額の15%を税額から控除し、教育訓練費を増加された場合には、控除率を5%上乗せし、最大で20%の税額控除とします。さらに、現行制度では大企業の税額控除額は法人税額の10%を限度としていましたが、これを20%に引き上げます。また、現行制度では、平成24年度の給与を基準として、そこからどれだけ賃上げされたかで税額控除額を計算していましたが、平成24年度からの対比を止め、前年度との比較で3%の賃上げを実施していただければ適用対象になり得ます。この3%の賃上げ要件は、大企業を対象としたものであり、中小企業については1・5%の賃上げが要件となります。

  2つ目は、情報連携投資等の促進に係る税制の創設です。これは、企業の内外におけるデータを連携・高度利活用すること等により生産性の向上を図るなど、「生産性向上特別措置法」の要件を満たすものとして認定された計画に基づく投資を行った場合に、特別償却又は税額控除を適用できる制度です。例えば、同じ企業の中でも、事業所間においてリアルタイムでデータ連携ができていない場合、一定のセキュリティを確保し、拠点は分割されていても一つの工場などでリンクさせる。その結果、それが生産性向上につながれば、この税制が活用できます。あるいは、複数の中小部品メーカーが連携して、元来もっていた高い技術力を活かしつつ、量産に必要な生産管理手法を共有し、関連部品の一貫生産体制を構築するなど、各企業間の調達・在庫・進捗状況等をリアルタイムで共有して生産効率を上げ、その結果、生産性を向上させた場合にも活用できます。

  3つ目は、租税特別措置の適用要件の見直しです。大企業について、①その大企業の継続雇用者給与等支給額が前事業年度の継続雇用者給与等支給額を超えること、②その大企業の国内設備投資額が当期の減価償却費の1割の金額を超えること、この2つの要件のいずれにも該当しない場合、その企業には研究開発税制その他一定の税額控除の規定を適用しないこととします。ただし、大企業の所得金額が前事業年度の所得金額以下の場合には対象外とします。

2 企業の事業承継・競争力強化

続いて、今年の改正の目玉である事業承継税制についてお話しします。60歳以上の経営者のうち廃業を予定している方にアンケート調査を実施したところ、約3割の方が「適当な後継者が見つからない」「子供がいない」「子供に継ぐ意思がない」と回答されました。事業を継がせたいが適当な人がいないということであれば、これは税制面で支援をさせていただきたいという趣旨です。

 今回の事業承継税制の改正では、経営者が保有する全株式を対象(現行:総株式の最大3分の2が対象)とし、相続時の納税猶予割合を100%(現行:80%)とします。つまり、事業を承継した時点では、相続税あるいは贈与税に関して現金は必要ないという仕組みに改めます。

 また、現行制度では、事業承継後5年間は平均8割の雇用を維持する要件がありますが、5年後に平均8割を満たせず、かつ、経営悪化している場合などについて認定支援機関の指導助言があれば、納税猶予は取り消されないこととなります。さらに、現行制度では、事業承継後に経営がうまくいかず、会社を譲渡・解散した場合には猶予されている承継時の贈与税・相続税を全額納付する必要がありますが、会社を譲渡・解散した場合には、その時点の株式価値で税額を再計算して差額を減免することとし、贈与税・相続税負担に対する将来的な懸念を軽減します。

  適用対象者についても拡大されています。現行制度は先代経営者1人から後継者1人への相続・贈与に限って事業承継税制が適用になりますが、新制度では複数人からの承継や、複数人への承継(最大3人)が認められます。例えば、先代経営者の奥様も株を持っているケース、あるいは後継者に兄弟などがいる場合に長男と次男で共同経営という形での承継が可能となります。

 それから、自己株式を対価とした株式取得による事業再編の円滑化措置を創設します。企業外の経営資源や技術を取り込み、企業の生産性向上等を実現するためには、大規模かつ迅速な事業再編によって、戦略分野への選択と集中、プラットフォームの提供、事業ポートフォリオ転換等を進めていくことが重要です。これらの特定の事業再編を強力に推し進めていく観点から、改正産業競争力強化法に基づく特別事業再編計画の認定を受けた事業者が行った特別事業再編による株式の交換について、その交換に応じた株主に対する譲渡損益に係る課税を繰り延べます。

3  観光先進国・地方創生の実現

日本がこれから成長していくためには、インバウンド需要が重要になります。政府としては今、観光振興に大きく力を入れています。その財源を確保するため、国際観光旅客等の出国1回につき1000円の負担を求める国際観光旅客税を創設します。

  また、外国人旅行者の利便性の向上及び免税店事業者の免税販売手続の効率化を図る観点から、外国人旅行者向け消費税免税制度の見直しを行います。具体的には、「一般物品」と「消耗品」の合計金額が5000円以上となる場合も免税販売の対象とする(現行制度では、「消耗品」と「一般物品」を免税販売するためには、それぞれで下限額(5000円以上)を満たす必要がある)とともに、現行の紙による免税販売手続(購入記録票のパスポートへの貼付・割印)を廃止し、免税販売手続を電子化することとします。

 地方拠点強化税制の見直しも行います。現行制度は、横浜市や千葉市などの東京近郊や名古屋市、大阪市など一部の地域には、東京23区から移転されても税制優遇は受けられないこととなっています。しかし、総務省の統計によると、東京一極集中の勢いは止まらず、中部圏や近畿圏からも東京に流出しているという事実が明らかになっています。今回これを見直し、東京23区から東京周辺への移転は引き続き対象外ですが、中部圏及び近畿圏中心部への移転については税制優遇の対象とします。

経済社会の国際化・ICT化等への対応等

近年、経済取引のグローバル化や企業の海外進出形態の複雑化・多様化がますます進展し、税務執行も困難化しています。国際課税に関しては、こうした経済実態の変化を踏まえつつ、我が国の適切な課税権の確保や経済の活性化、国際的な二重課税の調整といった政策目的の実現に向けた施策を不断に実施していく必要があります。ただし、こうした取組は日本だけではできませんので、国際的に協調して取り組まなければなりません。

  そこで「BEPSプロジェクト」というものがあります。これは、公正な競争条件の確保という考え方の下、多国籍企業が課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行うこと(BEPS)がないよう、国際課税ルール全体を見直し、世界経済並びに企業行動の実態に即したものとするとともに、各国政府・多国籍企業の透明性を高めることを目指すプロジェクトです。日本はOECD租税委員会の議長国としてBEPSプロジェクトの議論を主導してきました。

  このBEPSプロジェクトを着実に実施する取組の一環として、今回の税制改正では、恒久的施設(PE)関連規定の見直しを行います。恒久的施設(PE)とは、事業を行う一定の場所(支店等)・代理人をいいます。例えば、外国企業が日本国内で事業を行う場合、日本国内にその企業のPEがなければ、その企業の事業利得に課税できません。この制度について、現行の国内法では、倉庫のような保管・展示・引渡しなどの特定活動のみを行う場所は支店PEから除かれていましたが、今後は特定活動のみを行う場所も、その活動が外国法人等の事業の遂行にあたり、準備的・補助的な性格のものでない場合は、PEに該当することになります。代理人PE、建設PEについても見直しを行います。

  また、今後の課題・取組ということで、BEPSプロジェクトについては、引き続き、段階的かつ着実に合意事項を実施し、グローバルに公平な競争条件の確立を進めていきます。また、中期的な取組としては、移転価格税制や過大支払利子税制の見直し、タックスプランニングの義務的開示制度の導入などが検討されています。

  さらに、外国人の出国後の相続税納税義務を見直し、外国人が出国後に行った相続・贈与については、原則として国外財産には課税しないこととします。ただし、日本に長期間(10年超)滞在した外国人が、出国後に行った贈与については、出国から2年以内に再び日本に住所を戻した場合には、国外財産にも贈与税を課税することとします。

  次に、e─Taxの利用率の推移について見ると、平成27年度の法人税申告におけるe─Taxの利用率は75・4%です。ただし、法人税申告のうち大規模法人に限った場合は52・1%となっています。企業によっていろいろな事情があるかと思いますが、生産性向上のためにもペーパーレス化・電子化を進めていく必要がありますので、大規模法人に関しては、一定の期間を設けた上で、電子申告を義務化させていただきます。

  また、源泉徴収義務者の事務負担を軽減し、給与所得者の利便性を向上させる観点から、現行制度上、書面で源泉徴収義務者に提出がされている生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅ローン控除に係る年末調整関係書類について、電磁的方法による提出ができるようにします。

  さらに、金の密輸に対応するための関税・消費税の罰則を強化します。近年、金の密輸事件が多発し、社会的に大きな問題となっています。こうした金の密輸に対する抑止効果を高め、密輸者に一層の経済的不利益を与える観点から、関税法上の無許可輸出入罪の罰則及び輸入に係る消費税のほ脱罪の罰金上限額を大幅に引き上げます。

  一般社団法人に関する相続税についても見直しを行います。一般社団法人は持分がないため、そこに寄付された財産は持分がない以上、相続が発生しても課税されません。公益法人は、解散すると財産が国庫に帰属する、もしくは他の類似の業務を行う社団に引き継ぐのですが、一般社団法人は、解散すると残余財産を関係者で分配できるという仕組みになっていますので、そういったものを活用した課税逃れを防ぐために、同族関係者が理事の過半を占めている一般社団法人については、その同族理事の1人が死亡した場合、その法人の財産を対象に、その法人に相続税を課税することとします。

 また、財政物資としてのたばこの基本的性格に鑑み、たばこ税の税率を1本当たり3円(国・地方合計)引き上げます。税率の引上げは、消費者やたばこ関係事業者への影響に配慮し、平成30年10月から1本当たり1円ずつ3段階に分けて実施します。また、近年市場が拡大している加熱式たばこについても、その製品特性を踏まえた課税方式に見直します。

 以上、平成30年度税制改正について、主なところをご説明させていただきました。

  いよいよ平成31年10月から、軽減税率制度が実施されます。これまでとは違う事務をお願いすることになりますので、ぜひご準備を急いでいただければと思います。

  最後に、アメリカの税制改革についてお話しします。昨年、連邦法人税を35%から21%まで大幅に引き下げる税制改正が行われました。日本の実効税率は29・74%、これは地方税込みの数字ですが、例えばシリコンバレーがあるカリフォルニア州の地方税を考えますと、アメリカの実効税率は28%ぐらいまで下がります。これまで法人税については優遇措置を設け、あるいは課税ベースを広げていく中で基本税率を引き下げていく、この2つを行ってきました。場合によっては、アメリカの税制改正が日本にどんな影響を与えるのか、注視していく必要があります。

 ご説明は以上となります。ご清聴ありがとうございました。




(納税月報 2018年4月号より)

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